2024/10/31 コラム
自筆証書遺言が効力を発揮するためにチェックすべきポイント6選
相続を進めていくうえで、遺言書の存在は非常に重要です。
自筆証書遺言によって相続対策をする場合、効力を適切に発揮できるかどうかは大事なポイントとなるでしょう。
この記事では、自筆証書遺言が効力を発揮するためにチェックすべきポイント6選をご紹介します。
実際に自筆証書遺言によって効力を発揮する内容や、無効になるケースも具体例とともに紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.自筆証書遺言が効力を発揮するためにチェックすべきポイント
自筆証書遺言が効力を発揮するためには、いくつかのポイントを押さえている必要があります。
具体的なチェックポイントは、下記のとおりです。
- 財産目録以外の全文が自書されているか
- 作成した日付が自書されているか
- 遺言者の氏名が自書されているか
- 押印されているか
- 加除その他の変更について要件を守れているか
- 意思能力がある満15歳以上の状態で作成されたか
それぞれ詳しく解説します。
1-1.財産目録以外の全文が自書されているか
自筆証書遺言は、財産目録以外の全文が遺言者によって自書されている必要があります。
代筆されていたり、パソコンやスマートフォンで作成されたりしている場合、自筆証書遺言としての効力は認められません。
ただし、自筆証書遺言に添付する財産目録については書式が自由であり、パソコンやスマートフォンでの作成も認められています。
自筆証書遺言が有効かどうか判断したい場合は、財産目録以外の全文が自書されているかチェックしてみましょう。
1-2.作成した日付が自書されているか
自筆証書遺言には、作成した日付を自書している必要があります。
日付については「10月末日」や「10月吉日」など、作成した日が特定できない記載方法では、自筆証書遺言の効力は認められません。
「令和6年10月25日」といったように、自筆証書遺言を作成した日が特定できる形で自書されているかチェックしてみましょう。
1-3.遺言者の氏名が自書されているか
自筆証書遺言には、遺言者の氏名を自書している必要があります。
遺言者の氏名は、通称や姓だけでも遺言者を特定できれば有効となりますが、トラブルを避けるためにも戸籍どおりのフルネームを記載するのが無難です。
自筆証書遺言が有効かどうか判断したい場合は、遺言者を特定できる氏名が自書されているかチェックしてみましょう。
1-4.押印されているか
自筆証書遺言は、押印されている必要があります。
押印に使用するのは実印でなくてもいいとされているため、認印や拇印、指印であっても問題ありませんが、トラブルを防ぐためにも実印を使用するケースが一般的です。
自筆証書遺言が有効かどうか判断したい場合は、きちんと押印されているかチェックしてみましょう。
1-5.加除その他の変更について要件を守れているか
自筆証書遺言は自書によって作成される必要があるため、加除その他の変更はつきものといえます。
加除その他の変更については、要件が厳格に定められており、適切な方法でない場合は自筆証書遺言の効力が認められません。
例えば、書き間違いがある場合は、その箇所がわかるように示したうえで、訂正した旨を付記して署名・押印をする必要があります。
自筆証書遺言が有効かどうか判断したい場合は、これらの要件が守られているかチェックしてみましょう。
1-6.意思能力がある満15歳以上の状態で作成されたか
自筆証書遺言は「何歳までに作成しなければならない」といった、上限の年齢制限はありません。
ただし、下限の年齢制限は満15歳以上と定められています。
そのため、自筆証書遺言が有効かどうか判断したい場合は、満15歳以上で作成されたものかチェックする必要があります。
また、満15歳以上であっても、加齢や認知症などによって自筆証書遺言を作成できるだけの意思能力がない状態で作成されていた場合は、効力が認められないので注意が必要です。
2.自筆証書遺言が無効になるケース
自筆証書遺言のなかには、効力が認められず無効になるケースが存在します。
具体的なケースは下記のとおりです。
- 録画や録音んによって作成されている場合
- 特定できない日付が記載されている場合
- 遺言者本人とわかる氏名が記載されていない場合
- 押印が不鮮明である場合
- 加筆・訂正の箇所について要件を満たせていない場合
それぞれ詳しく解説します。
2-1.録画や録音によって作成されている場合
自筆証書遺言は、原則として自書によって作成しなければなりません。
パソコンやスマートフォン、代筆によって作成されている自筆証書遺言はもちろん、録画や録音によって作成されている場合も基本的に無効となるので注意が必要です。
自書が難しい場合は、公正証書遺言の作成をはじめとした別の方法を検討しましょう。
2-2.特定できない日付が記載されている場合
自筆証書遺言には、作成したタイミングが特定できる日付を記載しなければなりません。
「令和6年10月」や「2024年10月吉日」といったように、特定できない日付が記載されている場合、原則として自筆証書遺言は無効となります。
2-3.遺言者本人とわかる氏名が記載されていない場合
自筆証書遺言には、遺言者本人とわかる氏名が記載されていなければなりません。
氏名にはニックネームや芸名を記載しても問題ありませんが、遺言者本人が特定できる氏名を記載する必要があります。
記載されている氏名によって遺言者本人を特定できない場合、自筆証書遺言は無効になる可能性が高いので注意が必要です。
2-4.押印が不鮮明である場合
自筆証書遺言への押印は、鮮明でなければなりません。
印鑑自体は拇印や認印でも問題ありませんが、不鮮明である場合は遺言者を特定できない可能性があります。
押印が遺言者本人によるものであると判断できない場合、自筆証書遺言は無効になる可能性が高いので注意が必要です。
2-5.加筆・訂正の箇所について要件を満たせていない場合
自筆証書遺言を加筆・訂正する場合は、要件を満たさなければなりません。
自筆証書遺言の作成については、厳格な要件が定められており、加筆・訂正についても適切におこなう必要があります。
加筆・訂正の方法に誤りがあり、要件を満たせていない場合、自筆証書遺言は無効になる可能性が高いので注意が必要です。
3.自筆証書遺言が有する効力の内容
自筆証書遺言は有効性が認められた場合、さまざまな効力を発揮します。
具体的な自筆証書遺言が有する効力の内容は下記のとおりです。
- 遺産分割方法の指定(遺産分割の禁止)
- 相続分の指定
- 相続人の廃除やその取り消し
- 特別受益持戻しの免除
- 生命保険受取人の指定・変更
- 遺言執行者の指定(指定の委託)
- 遺留分侵害額の負担割合に関する指定
- 祭祀主宰者の指定
- 遺贈
- 寄付や一般財団の設立
- 信託の指定
- 非嫡出子の認知
- 各相続人の担保責任に関する指定
- 未成年者の後見人や後見監督人の指定
それぞれ詳しく解説します。
3-1.遺産分割方法の指定(遺産分割の禁止)
自筆証書遺言は、遺言者が遺産をどのように分割するかをあらかじめ決められる効力を有しています。
これにより、遺産を具体的な方法で分配することや、特定の相続人に特定の財産を相続させることが可能です。
遺産をそのままの形で相続させる「現物分割」や、遺産を売却し現金に換えて分配する「換価分割」、一部の相続人が現物を取得し、他の相続人に相応の金銭を支払う「代償分割」があります。
例えば、遺言者が遺言書に「土地を次男に相続させ、残りは売却してその代金を分配する」と記載すれば、相続人同士での争いが抑えられるでしょう。
また、自筆証書遺言では遺産分割の禁止も可能です。
何らかの理由で自身の死後すぐに遺産分割協議がおこなわれることに不都合がある場合、自筆証書遺言にその旨を記載することで、最長5年の間遺産分割を禁止できます。
特に相続人のなかに未成年がいる場合や、相続財産調査に時間がかかる場合に利用されるケースが多いです。
3-2.相続分の指定
自筆証書遺言は、相続分の指定について効力を有しています。
相続分の指定とは、遺言者が特定の相続人に対して特定の取り分をあらかじめ定めることです。
これにより、遺産分割協議において各相続人が取り分を決める際の目安として「法定相続分」をもとにする必要がなくなります。
例えば、遺言者が「妻には財産の70%、長男には20%、次男には10%を相続させる」と明記することで、希望どおりの相続を実現できる可能性が高いです。
このように相続分を指定することで、遺言者が配偶者や子どもたちへの遺産分配に対する意思をはっきりと伝えられます。
3-3.相続人の廃除やその取り消し
自筆証書遺言は、相続人の廃除やその取り消しについて効力を有しています。
相続人の廃除とは、特定の相続人が遺言者に対して虐待や侮辱などの行為をおこなっていた場合に、その相続人を相続から除外する手段です。
これにより、遺言者は望まない相続を防げます。
また、相続人の廃除を取り消すことも自筆証書遺言によって可能です。
相続人の廃除を実行するには、遺言者が遺言執行者を指定し、家庭裁判所への申立てが必要です。
例えば、遺言書に「長男を相続人から廃除する」旨を記載し、遺言執行者を指定すれば、円滑に相続人の廃除がおこなわれます。
3-4.特別受益持戻しの免除
自筆証書遺言は、特別受益持戻しの免除について効力を有しています。
特別受益持戻しの免除とは、遺言者が特定の相続人に対して生前贈与をおこなった際に、その贈与分を遺産分割時に考慮しないよう指示するためのものです。
この免除があることで、相続人の取り分が公平に分配されやすくなります。
例えば、長男へ生前に多額の資産を贈与していた場合、特別受益持戻しを免除すれば、他の相続人とのバランスを考慮せずに相続が進められます。
このように、遺言によって贈与分を免除することで、相続人同士の不公平感を緩和し、遺産分割がスムーズに進む効果を期待できるのです。
3-5.生命保険受取人の指定・変更
自筆証書遺言は、生命保険受取人の指定・変更について効力を有しています。
例えば、長年お世話になった親族や特定の相続人を受取人として指定することで、その方に対する感謝の気持ちを具体的な形にできます。
生命保険金は相続財産としてカウントされないため、相続税の面でも活用されることが多いです。
3-6.遺言執行者の指定(指定の委託)
自筆証書遺言は、遺言執行者の指定または指定の委託について効力を有しています。
遺言執行者は、遺言者の意思を実現するために必要な手続きをおこなう役割がある人です。
遺言執行者を指定することで、遺言内容を実現できる可能性が高まるため、相続手続きの円滑化が期待できます。
3-7.遺留分侵害額の負担割合に関する指定
自筆証書遺言は、遺留分侵害額の負担割合に関する指定ができます。
これにより、遺留分を侵害した相続人同士で負担の比率を柔軟に決められるため、相続が円滑に進みやすくなるのです。
例えば、遺言で「長男と次男がそれぞれ3対1の割合で遺留分の侵害額を負担すること」と指定することで、法定のルールとは異なる分割が可能になります。
こうした負担割合の指定により、遺産分割がスムーズに進み、相続人同士の紛争を未然に防げる可能性が高いです。
3-8.祭祀主宰者の指定
自筆証書遺言は、祭祀主宰者の指定について効力を有しています。
祭祀主宰者とは、遺言者が先祖供養を担う人物のことです。
具体的には、墓地や遺骨の管理、菩提寺とのやりとりなどを担います。
自筆証書遺言によって祭祀主宰者を指定しておくことで、遺族間のトラブル防止につながる可能性が高いです。
3-9.遺贈
自筆証書遺言は、遺贈についても効力を有しています。
遺贈とは、遺言によって他者に財産を贈ることです。
遺贈では相続人はもちろん、法人や相続人以外の第三者に財産を贈ることもできます。
例えば、法的に婚姻関係にない内縁の妻は、相続人になれません。
その場合、遺贈を活用して財産を贈れるのです。
3-10.寄付や一般財団の設立
自筆証書遺言によって、財産を寄付することや一般財団を設立することが可能です。
これにより、相続財産を社会貢献のために活用し、節税対策としても効果的に資産を管理できます。
例えば、遺言で「特定の団体に寄付する」や「教育支援を目的とした財団を設立する」といった指定をおこなうことで、遺産を公益活動に役立てられfます。
寄付や一般財団の設立を通じて、社会貢献の意思を遺産に反映することが可能です。
3-11.信託の指定
自筆証書遺言は、信託の指定について効力を有しています。
信託の指定は、遺言者が自身の財産を信頼できる人物や信託銀行に管理を委ねる方法です。
これにより、法定相続人が高齢者であったり幼かったりする場合でも、確実かつ安全な財産管理ができます。
例えば、未成年の相続人に対し遺言で信託を指定し、受託者がその財産を管理するようにすることで、安心して財産を引き継がせられます。
3-12.非嫡出子の認知
自筆証書遺言は、非嫡出子の認知についても効力を有しています。
非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にない二人の間に生まれた子どものことです。
非嫡出子には相続権が原則として認められませんが、自筆証書遺言によって認知することで、正当に財産を相続できるようになります。
3-13各相続人の担保責任に関する指定
自筆証書遺言は、各相続人の担保責任に関する指定が可能です。
自筆証書遺言によって各相続人の担保責任に関する指定をしておくことで、遺産分割後に問題が見つかり、その分の負担が特定の相続人に偏る場合、他の相続人も補填の責任を負います。
遺言によってこの担保責任を指定することで、相続分にとらわれず柔軟に対応することが可能です。
例えば、ある相続人について担保責任を免除する、あるいは金額の上限を定めることで、その人に対する負担が不公平に大きくなることを防げます。
3-14.未成年者の後見人や後見監督人の指定
自筆証書遺言は、未成年者の後見人や後見監督人の指定についても効力を有しています。
未成年後見人とは、判断能力が乏しい未成年者の法的な代理人として、財産管理や身上看護などをおこなう人のことです。
また、後見監督人とは後見人がきちんと被後見人の利益を目的として業務にあたっているか、監督する役割がある人を指します。
自筆証書遺言によって未成年後見人や後見監督人を指定することで、相続人が財産管理をおこなうことが難しい未成年者の場合でも、信託を通じて円滑な財産管理が可能となるのです。
4.自筆証書遺言の効力が認められるか確認する方法
自筆証書遺言は無効となるケースもあるため、効力が認められるか確認したい方も多いでしょう。
自筆証書遺言の有効性を判断する具体的な方法は下記のとおりです。
- 筆跡鑑定を依頼する
- 遺言書作成当時の医療記録を確認する
- 弁護士に確認を依頼する
それぞれ詳しく解説します。
4-1.筆跡鑑定を依頼する
自筆証書遺言は、財産目録以外を自書で作成しているかどうかが非常に重要です。
そのため、自筆証書遺言の筆跡鑑定を依頼することが、有効性を確認する方法の一つといえます。
筆跡鑑定を依頼することで、自筆証書遺言が実際に遺言者本人によって作成されていることを証明できるため、効力を認めてもらえる可能性が高まります。
4-2.遺言書作成当時の医療記録を確認する
自筆証書遺言は、遺言書を作成するだけの意思能力がある状態で作成されなければなりません。
例えば、遺言書作成当時から重度の認知症を患っている場合、遺言書は無効と判断される可能性が高いです。
遺言書作成当時の医療記録を確認し、遺言書を作成できるだけの意思能力があったかどうかをチェックすることで、自筆証書遺言の効力が認められるかどうか確認できるでしょう。
4-3.弁護士に確認を依頼する
さまざまなポイントを考慮しても、相続の知識がない個人で自筆証書遺言書の有効性を判断するのは困難であるケースが多いです。
そのため、弁護士に自筆証書遺言の有効性を確認してもらうことがおすすめです。
弁護士に確認を依頼することで、相続や法律に関する専門知識を活かして、自筆証書遺言の有効性を判断してもらえます。
相続や遺言書に関する業務の実績が豊富な弁護士を探し、確認を依頼するといいでしょう。
5.自筆証書遺言の効力が認められるか確認する際の注意点
自筆証書遺言の有効性を確認する場合、注意すべきポイントがあります。
具体的な注意点は下記のとおりです。
- 検認では効力の有無を確認できない
- 遺言書の改ざん・偽造はおこなわない
それぞれ詳しく解説します。
5-1.検認では効力の有無を確認できない
自筆証書遺言の検認では、効力の有無を確認できないので、注意が必要です。
自筆証書遺言を開封する場合、原則として家庭裁判所で検認を受けなければなりません(ただし、法務局での保管制度を利用している場合は検認が不要)。
遺言書の検認とは、相続人に対して遺言書の内容を明らかにすることで、偽造・変造を防ぐための手続きです。
家庭裁判所でおこなわれるため、検認を経ることで遺言書の効力も認められると思われがちですが、検認はあくまでも偽造・変造を防ぐための手続きなため、効力の有無を判断するものではありません。
検認を受けた自筆証書遺言であっても、無効となる場合もあるので注意が必要です。
5-2.遺言書の改ざん・偽造はおこなわない
自筆証書遺言の効力が認められるか確認する場合、効力を認めてもらえたほうが自身にとって都合がいい場合や、効力を認められないほうが自身にとって都合がいいこともあるでしょう。
自身に都合がいい結果を得たいからといって、自筆証書遺言の内容を改ざん・偽造することは決しておこなってはいけません。
そもそも自筆証書遺言を開封する場合は、家庭裁判所で検認を受ける必要があり、検認の前に遺言書を開封すると過料を科される可能性が高いです。
また、自己の都合によって遺言内容を改ざん・偽造した場合、刑事責任を問われるリスクがあります。
自筆証書遺言の効力が認められるか確認する場合は、自身の都合で遺言書の改ざん・偽造をおこなわないようにしましょう。
6.まとめ【自筆証書遺言の効力に関するお悩みは弁護士にご相談を】
いかがでしたか?
今回は、自筆証書遺言が効力を発揮するために確認すべきポイントを具体的に紹介しました。
自筆証書遺言は、適切に作成できればさまざまな効力を発揮します。
しかし、効力を適切に発揮するためには、法律で厳格に定められた要件を満たしていなければなりません。
ご自身で自筆証書遺言が有効かどうか判断が難しい場合は、専門家である弁護士への相談がおすすめです。
広島市にある「いちじょう法律事務所」では、初回相談無料で承っています。
弁護士として15年以上活動してきた経験をもとに、適切なアドバイスを心がけておりますので、相続問題でお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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