2024/07/31 コラム
自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度とは?利用方法やメリットも解説
将来の相続対策として、自筆証書遺言の作成をお考えの方もいらっしゃるでしょう。
自筆証書遺言は手軽に作成できるため、作成を検討される方も多いです。
では、作成した自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度をご存知でしょうか。
この制度を利用することで、自筆証書遺言が抱えているデメリットを克服できる可能性が高いです。
この記事では、自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度である「自筆証書遺言保管制度」について、詳しく解説します。
実際に利用する際の流れや、メリットも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度とは?
自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度を「自筆証書遺言保管制度」といいます。
自筆証書遺言保管制度は、2020年(令和2年)7月10日の法改正によって開始された制度です。
法務局へ遺言書の保管を申請することで、原本に加え画像データ化して保管してもらえます。
遺言書の原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは遺言者の死亡後150年間にわたって適切に保管してもらえるため、遺言書作成後も安心です。
2.自筆証書遺言書保管制度を利用するメリット
自筆証書遺言保管制度を利用することには、さまざまなメリットがあります。
具体的なメリットは下記のとおりです。
- 形式不備によって無効になるリスクを軽減できる
- 偽造や紛失などのリスクを軽減できる
- 検認の手続きが不要になる
それぞれ詳しく解説します。
2-1.形式不備によって無効になるリスクを軽減できる
遺言書は作成形式が法律で厳格に定められており、形式不備があると無効になってしまうリスクがあります。
特に自筆証書遺言は、財産目録以外を自筆で作成する必要があるため、形式不備によって無効になるケースが多くありました。
自筆証書遺言保管制度を利用することで、形式不備によって無効になるリスクを軽減できます。
その理由として、自筆証書遺言保管制度を利用する際には、形式に沿って作成されているか遺言書保管官の外形的なチェックが受けられるからです。
形式不備によって無効になるリスクが軽減されることで、相続対策として遺言書を活用できる可能性が高まるでしょう。
2-2.偽造や紛失などのリスクを軽減できる
自筆証書遺言書は原則として、作成後は自身で保管・管理が求められます。
そのため、保管方法や保管場所によっては、悪意のある第三者に偽造や改ざんされたり、引越しの際に処分してしまったりといったトラブルも多くありました。
自筆証書遺言保管制度を利用することで、遺言書が法務局で厳重に保管されるため、偽造や紛失などのリスクを軽減できます。
遺言書作成後の偽造や紛失などのリスクを軽減することで、スムーズかつ適切な相続を実現できるでしょう。
2-3.検認の手続きが不要になる
自筆証書遺言は原則として、開封前に検認の手続きを経る必要があります。
仮に検認の手続きを怠り、勝手に遺言書を開封してしまうと、ペナルティが課せられる可能性も高いです。
そもそも検認の手続きは、遺言書の偽造・変造を防止するためにおこないます。
自筆証書遺言保管制度を利用することで、遺言書は法務局で厳重に保管されるため、偽造・変造の心配がありません。
そのため、自筆証書遺言保管制度を利用した場合は、開封前に検認の手続きをする必要がないのです。
検認の手続きが不要になることで、相続人の負担軽減につながるでしょう。
3.自筆証書保管制度を利用するデメリット
自筆証書遺言保管制度にはさまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在します。
具体的なデメリットは下記のとおりです。
- 保管申請や閲覧などに手数料がかかる
- 保管できる法務局の支局や出張所が限られる
- 制度を利用するためには遺言者本人が法務局へ出頭する必要がある
それぞれ詳しく解説します。
3-1.保管申請や閲覧などに手数料がかかる
自筆証書遺言は、手軽かつ費用を抑えて作成できる点が魅力の一つです。
用紙や筆記用具などに決まりはないため、費用をかけずに作成できるケースもあるでしょう。
自筆証書遺言保管制度を利用する場合、保管申請や閲覧などに手数料がかかります。
保管申請については1通につき3,900円、閲覧についてはデータのみであれば1回につき1,400円、原本を閲覧する場合は1回につき1,700円必要です。
この他にも、遺言書情報証明書の交付や、遺言書保管事実証明書の交付にも費用がかかります。
できるだけ費用をかけずに自筆証書遺言を作成したい方にとっては、デメリットの一つとなるでしょう。
3-2.保管できる法務局の支局や出張所が限られる
自筆証書遺言保管制度を利用する場合、すべての法務局で保管を受け付けているわけではありません。
保管できる法務局の支局や出張所は限られているため、事前に確認が必要です。
場合によっては、遠方まで出向かなければならないこともあるでしょう。
保管できる法務局の支局や出張所が限られていることで、お住まいの場所によっては制度の利用が困難な可能性もあります。
3-3.制度を利用するためには遺言者本人が法務局へ出頭する必要がある
自筆証書遺言保管制度を利用するためには、遺言者本人が法務局へ出頭しなければなりません。
自筆証書遺言保管制度の利用を検討している人のなかには、病気や怪我などで法務局への出頭が困難な方もいらっしゃるでしょう。
自筆証書遺言保管制度の利用には、本人出頭義務が課されているため、遺言者本人が法務局へ出頭できない場合は制度を利用できません。
介護のために付添人が同伴することは認められていますが、それでも遺言者が法務局へ出頭できない場合は制度の利用が認められない可能性も高いです。
4.公正証書遺言と法務局に預けた自筆証書遺言の違い
自筆証書遺言の他にも遺言書の形式はいくつか存在し、公正証書遺言もその一つです。
では、公正証書遺言と法務局に預けた自筆証書遺言にはどのような違いがあるのでしょうか。
具体的な違いは下記のとおりです。
- 保管される場所
- 証人の有無
- 死亡時の通知
それぞれ詳しく解説します。
4-1.保管される場所
自筆証書遺言を法務局に預ける場合、当たり前ですが自筆証書遺言の原本とデータは法務局で保管されます。
一方、公正証書遺言は原本が公証役場で保管されるのです。
それぞれ保管場所が異なるため、遺言書を作成する場合は、形式とあわせて保管場所も相続人へ伝えておくことが重要になります。
4-2.証人の有無
自筆証書遺言の作成時には、証人の立ち会いが必要ありません。
また、作成した自筆証書遺言を法務局へ預ける際にも証人の立ち会いは不要です。
一方、公正証書遺言を作成する際には、証人2人の立ち会いが必要になります。
公正証書遺言の作成にともなう証人は誰でもいいわけではなく、いくつかの条件を満たす必要があるため注意しましょう。
4-3.死亡時の通知
自筆証書遺言を法務局へ預ける場合、死亡時に遺言書の存在について相続人が通知を受けられます。
遺言書が存在するのか、存在する場合はどこにあるのか、といった点で相続人が悩まずに済む点は大きなメリットとなるでしょう。
一方、公正証書遺言の場合は、遺言書の存在について通知を受けられません。
公正証書遺言を作成する場合は、相続人が遺言書の存在を確認する必要があります。
遺言書の存在を確認することは相続人の手間となりますし、遺言書の存在が見過ごされるリスクもあるので注意が必要です。
5.自筆証書遺言書保管制度の利用前に確認すべきチェックリスト
自筆証書遺言保管制度を利用する際には、事前に下記の項目をチェックしましょう。
- 遺言書を全文手書きしたか
- 遺言書作成した年月日を手書きしているか
- 氏名を手書きしたか
- 遺言書に手書き以外の「財産目録」を添付する場合、すべてのページに氏名を記載して押印しているか
- 訂正箇所がある場合、その箇所がわかるよう変更・訂正し、押印する手当をしているか
- 遺言書および財産目録はA4サイズの用紙で作成しているか
- 遺言書および財産目録の全ページにページ番号を記載しているか
- 用紙の片面だけに記載しているか
- 用紙が複数枚になる場合でもホチキス止めをしていないか
- 遺言書および財産目録の外側に縦置きで見て左側20mm、上側・右側5mm、下側10mmの余白があるか
これらのうち、一つでも満たせていない項目があると、自筆証書遺言保管制度の利用が認められない可能性も高いです。
自筆証書遺言保管制度を適切に活用するためにも、事前に各項目をチェックしましょう。
6.自筆証書遺言書保管制度を利用する際の流れ
実際に自筆証書遺言保管制度を利用する際の具体的な流れは下記のとおりです。
- 自筆証書遺言を作成する
- 遺言書保管所(法務局)を決める
- 必要書類を作成する
- 保管申請の予約をする
- 保管の申請をする
- 保管証を受け取る
それぞれ詳しく解説します。
6-1.自筆証書遺言を作成する
自筆証書遺言保管制度を利用する際には、まず正しく自筆証書遺言を作成しましょう。
詳しい作成方法については下記の記事で詳しく解説していますので、ぜひご確認ください。
自筆で作成する遺言書の書き方をわかりやすく解説!例文も複数紹介
作成形式や遺言内容に不備や誤りがあると、無効になったり、相続人同士でトラブルの原因となったりするリスクがあるので、実際の作成については弁護士をはじめとした専門家への相談がおすすめです。
6-2.遺言書保管所(法務局)を決める
自筆証書遺言が正しく作成できたら、次は遺言書保管所を決めましょう。
遺言書を保管できる場所は決められており、遺言者自身の出頭が必要です。
遺言書保管所は下記のいずれかから選択することになります。
“遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所”なお、2通目以降を追加で保管してもらう場合は、最初に保管申請をおこなった遺言書保管所でないと申請ができないので注意しましょう。
6-3.必要書類を用意する
遺言書保管所が決まったら、次は必要書類を用意しましょう。
具体的な必要書類は下記のとおりです。
- 自筆証書遺言書
- 申請書
- 本人確認書類
- 本籍と戸籍の筆頭者が記載されている住民票の写し
なかでも申請書は作成様式が決められており、適切な作成が求められます。
遺言者の氏名や住所、生年月日の記載はもちろん、相続財産を受け取る人(受遺者)の氏名や住所などの記載も必要なので注意が必要です。
また、遺言書を外国語で作成する場合は、日本語による翻訳文も用意する必要があるでしょう。
6-4.保管申請の予約をする
必要書類を用意できたら、保管申請の予約をしましょう。
自筆証書遺言保管制度を利用するための保管申請は、事前予約が必要です。
ネット予約か電話での予約が必要になるため、事前に保管申請をおこなう遺言書保管所へ予約をしましょう。
6-5.保管の申請をする
保管申請の予約ができたら、予約した日時に遺言者本人が遺言書保管所へ出頭しましょう。
出頭する際には、事前に用意した必要書類を忘れずに持参することが重要です。
何か一つでも忘れてしまうと、自筆証書遺言保管制度の申請は認められません。
また、保管申請には遺言書1通につき3,900円の手数料が必要になるため、必要書類とあわせて準備しておきましょう。
6-6.保管証を受け取る
保管の申請をしたら、最後に保管証を受け取り手続き終了です。
遺言書や申請書、添付書類に問題なければ保管証が渡されるので、必ず受け取りましょう。
保管証には、遺言者の氏名や生年月日、手続きをおこなった遺言書保管所の名称および保管番号が記載されているはずです。
保管証を紛失した場合、再発行してもらえないので、紛失しないよう大切に保管しておきましょう。
7.自筆証書遺言書保管制度を利用する際の注意点
自筆証書保管制度を利用する際には、いくつかの点に注意が必要になります。
具体的な注意点は下記のとおりです。
- 用紙・筆記具に要件がある
- 法務局では遺言内容に関する相談はできない
- 撤回・変更のためには届出が必要
それぞれ詳しく解説します。
7-1.用紙・筆記具に要件がある
自筆証書遺言の作成に際して、原則として用紙や筆記具に要件はありません。
そのため、手軽に作成しやすい遺言書の形式といえるでしょう。
しかし、自筆証書保管制度を利用する際には、自筆証書遺言の作成に際して用紙や筆記具に要件があるため、注意が必要です。
具体的には、下記の要件を遵守しましょう。
“用紙について
サイズ:A4サイズ
模様等:記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの。一般的な罫線は問題ありません。
余白:必ず、最低限、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白をそれぞれ確保してください。”
“筆記具について
遺言書は、長期間保存しますので、消えるインク等は使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用してください。”
7-2.法務局では遺言内容に関するチェックは受けられない
法務局(遺言書保管所)では、遺言書の作成形式についてチェックを受けられます。
しかし、あくまでも作成形式についてのチェックだけで、遺言内容に関するチェックは受けられないので注意が必要です。
相続対策として有効な遺言内容を作成したい場合は、事前に弁護士をはじめとした専門家へ相談すると良いでしょう。
7-3.撤回・変更のためには届出が必要
自筆証書保管制度を利用して、自筆証書遺言を法務局へ預けた場合、撤回・変更のためには届出が必要になるので注意しましょう。
遺言書によって相続対策をする場合、法務局へ預けてから相続財産や相続人の状況が変わり、遺言内容の撤回・変更が必要になることも少なくありません。
法務局へ預けた遺言書を撤回・変更する場合、どちらの場合であっても遺言書を預けている法務局(遺言書保管所)へ届出が必要です。
なお、法務局から返してもらった遺言書についても法的効力は有しており、保管を撤回して自宅で保管する場合も作成し直す必要はないので安心してください。
また、一度撤回したあとで、再度保管申請をすることも可能です。
8.【まとめ】相続対策として自筆証書遺言保管制度を活用しよう!
いかがでしたか?
今回は、自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度について、利用方法やメリットをあわせて紹介しました。
自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度として、自筆証書遺言保管制度があります。
自筆証書遺言保管制度を利用することで、これまで自筆証書遺言が抱えていたデメリットを補える可能性が高いです。
ただし、利用には専門知識が必要になるため、自筆証書遺言保管制度を利用する際には弁護士をはじめとした専門家への相談がおすすめです。
広島市にある「いちじょう法律事務所」では、初回相談無料で承っています。
弁護士として15年以上活動してきた経験をもとに、適切なアドバイスを心がけておりますので、遺言書の作成をはじめとした相続問題でお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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